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特集:自由な移動は自立の一歩!

まちに出るのは命がけ?!

昨年12月、JR天王寺駅で、電動車いす利用者のRさんがホームから転落し大ケガをしました。7月には近鉄河内小阪駅で視覚障がい者のAさんが転落し、声を上げたが気づかれず発車した電車に引きずられて、奇跡的に一命を取りとめた事故がありました。毎日利用する駅でAさんは白い杖でドアの開き幅を確認して電車に乗ろうとしました。その時ドアだと思ったのは、運転車両の連結部分でした。通常よりも広くホロもなかったのでわからなかったのです。 「自由に移動できるのが当たり前になるようバリアフリー化を進めよう」―さらなる実現をめざして、3月11〜12日「交通バリアフリー全国集会」が韓国からのゲストを招いて大阪(北区)で行われました。

バリアフリーな韓国へ 法律に移動権を明記

韓国で二〇〇五年一月、「交通弱者の移動便宜増進法」が施行されました。法成立までに多くの犠牲と命がけのアクセス運動があったといいます。

「誰でも他人の手助けなしに行きたいところに行けるべきであり、障がい者であるために、高齢者であるために、移動に制約を受けてはならない」。自ら電動車いすユーザーである「隆昊さん(障がい者移動権連帯共同代表)は、運動の原点をこう語りました。

五年前、障がい者が外出、移動しようとしても、公共交通や道路はまだまだひどく、非常に困難がありました。車いすリフトや階段昇降機も事故や故障が多く危険がいっぱいでした。二〇〇一年一月にオイド駅(ソウル市の隣の県)で垂直型の車いすリフトが墜落し、乗っていた障がい者が死亡する事故が起こりました。この事件をきっかけに、障がい者団体が「移動権連帯」の組織を作り、地下鉄駅のエレベーター設置運動を開始したのです。

移動権の保障を求める運動は「バス乗り込み運動・低床バス導入運動」へと続きました。韓国(特に地方)の主な交通機関はバス。バスに乗りたい!というのは多くの障がい者の願いでした。

新しい法律では、移動の権利が明記され、低床バスの導入義務も明文規定されました。バリアフリー社会をつくるための今後の動きに期待と注目が集まっています。

障がいが問題なのか? 発想の転換を

以前には「車いすで交通機関を利用することは、 周りに迷惑をかけること」という養護学校の教師等をはじめとする社会の側からの圧倒的なメッセージがありました。それに対して「迷惑をかけてもいいじゃないか、他人の手を借りてもいいじゃないか」「問題なのは、障がいがあることではなく、利用できない状況にある交通機関や街の構造の方だ」との発想の転換を原動力として「誰もが利用できる交通機関を!」と提起されてきたのです。これがユニバーサル・デザインの理念の端緒ともいえます。

東横インの問題で「ハートビル法」のことを知られた方は多いかもしれません。利益追求だけで法律をごまかし不正改造するような向きもあり、また、「障がい者用」の設備はお金がかかりすぎるという人もいます。

しかし、公共的な施設や場所は、障がいをもつ人も使えるようにすることが、結局、誰にとっても安全で使いやすいものになるという考えで、社会基盤の整備が進められています。

交通バリアフリー法は、五年たった今、見直しの時期です。みなさんも、いっしょに考えてみてください。

ユニバーサル・デザイン

ユニバーサル・デザインとは、「あらかじめ年齢、性別、能力の違い、人種等にかかわらず、できるだけ多くの人が利用可能なように利用者本位の考え方にたったデザイン」です。たとえば一七〇aの人にちょうどいいシャワーは一九〇aの人には低すぎるし、一五〇aの人には高すぎます。「できるだけ多くの人が利用可能な」シャワーとはどんなものでしょう?

「高さを変えられるようになっているシャワーは、多くの人が快適に使えます」一級建築士でアクセスコンサルタントの川内美彦さん(ご自身も車いす生活者)は、「環境の側が歩み寄る、それも統計上の中くらいの人や寸法を基準にした固定的なものではなく、柔軟な方法を考えること。それが、ユニバーサル・デザインです」と語ります。

建築物などの人工的環境は、はじめから、いろいろな利用者のことを考えて作る、後から変更しやすいように作っておく。ユニバーサル・デザインは、作った後から改修するより、最初から問題をなくせばいいという発想から生まれました。

スパイラルアップ 終わりのない努力

しかし、できるだけ多様なニーズを取り込んだものづくり、まちづくりは可能なのでしょうか?―川内さんは問いかけます。―「ある環境ができて人々がそれを使い始めると、いろいろ不備な点が見えてきます。その都度改修していくと、そのたびに使える人は少しずつ増えていきますが、それにしても不備な点の指摘は終わらないからです」

建物を作りました。高齢の人が、入り口の階段を上がるのが難しいというので、手すりをつけました。若い夫婦がベビーカーを押して入りたいというので、スロープをつけました。車いすを使う人が来て、スロープの勾配がきついというので、ゆるくしました。別の高齢の人が来て、スロープにも手すりをつけることにしました。全盲の人が来て、階段の手前に警告用床材(いわゆる点字ブロック)をというので、そうしました。

この設計者はこのことを学習して、次に設計した建物では入り口の階段をなくすことにしました。これで手すりもスロープも警告用の床材も、何もいらなくなりました。今度来た人は、入り口が薄暗いので照明を明るくして欲しいといいます。別の人は、雨の日にも滑りにくい床材にしてくれといいます。そのたびにこの設計者は学習して、次の設計に生かしていきます。

これがスパイラルアップです。例えばバリアだらけの駅を徐々に改修していったという経験を持つ設計者は次の駅を設計をする時には、様々な利用者を想定し、様々なニーズに応える駅をはじめから設計するでしょう。そして使いやすくなった駅にはもっと多くの人が訪れ、さらに多くの人のニーズが寄せられ、それが次の新しい駅の設計に生かされる。こうした段階的かつ継続的な発展がスパイラルアップです。できるだけ多様なニーズに応えていこうとする終わりのない努力です。

当事者参画 事後評価の重要性

交通バリアフリーを考える上で、高齢者・障がい者・子育て中の人など交通弱者といわれる人たちの計画段階から事業終了までの参画が重要です。当事者が参画しない中で作成されたものは、できてから不都合が多々出てきて、その修正に多額のお金が要ることになります。それが、市町村の財政を圧迫するため、市町村は基本構想の策定に「二の足を踏む」結果につながると考えられます。

今回の交通バリアフリー法の改定では、住民・関係者が基本構想の作成・提案ができる制度の法制化、それと基本構想策定時の協議会制度も法制化されます。その点では一歩前進したように感じます。

しかしながら、スパイラルアップを成功させるためには、事後調査・評価こそが重要です。トラブル・クレーム等の相談、事故調査機関を設置し、そこにもパイオニア的存在の当事者参画が重要ですし、当事者参画のしくみに対応した人材養成も不可欠です。

「ユニバーサル・デザインの成熟のためには、自分のニーズをきちんと理解し、それを表明でき、他の人のニーズと折り合いをつけながら実現していこうとする多様な人々の主体的な関わりが不可欠です」と川内さんは、消費者が主導していくユニバーサル・デザインの意義を強調されています。

交通バリアフリー法
高齢者や障がい者などが公共交通機関を利用して安全に移動できるようにバリアフリー化を進めるため、2000年に成立。エレベーター、ノンステップバス、駅周辺の道路や施設整備などが、少しずつ進んできました。
ハートビル法
建築物のバリアフリー化を図るため、1994年に制定。2003年改正により、一定面積以上で多くの人に利用される建物について、新たな建築工事をする時にはバリアフリー基準の適合を義務づけました。
バリアフリー新法(案)
政府はこれら2つの法を見直し、総合的な建築環境に関するバリアフリー化を定めようと、「高齢者、障がい者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(案)」を今国会に提出。この法案によると、身体障がいの面だけがとりあげられ、情報や認知などの障がいへの配慮に欠けます。移動の権利が明記されていないことも問題となっています。他方、住民による提案制度や協議会の法定化等、今後の運動としても活用が期待される点もあります。当事者をまじえて十分に審議をし、より完全なバリアフリー化のための法律づくりを望みます。

川内美彦さん

「福祉」という視点ではなく、障害のある人の社会への関わりを権利として確立していく活動を展開している。2000年「ロン・メイス21世紀デザイン賞」受賞。著書『ユニバーサル・デザイン−バリアフリーへの問いかけ』学芸出版社(2001/4)『バリア・フル・ニッポン−障害を持つアクセス専門家が見たまちづくり』(1996/11)他

(2006/09/29)



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