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電光表示記事の作り方/石塚直人

はじめに

新聞社の仕事は間口が広い。新聞の制作・発行以外にも、本を出したり文化やスポーツの事業を主催したり、その中で、ここ一〇年ほどの間に急成長した分野がある。インターネットや携帯端末に記事を載せる、いわゆるメディア部門。私は一年前に編集局を離れ、こちらに異動した。

今、最も大きな仕事は、新幹線などで流れる電光表示ニュースを作ること。東京、大阪、西部の三本社から一、二、三面、さらに社会面、政治面、外電面、経済面など向けに送信される記事に目を通し、これはというものを五〇字(新幹線はこれ)、三〇字の定型にまとめて所定の事業者に送信する。

電光記事には、一般記事とは別の配慮が必要だ。短い文章でまとまった内容を伝える。しかも後半部分が読者の目に触れる頃には、最初の部分は消えてしまっている。わかりやすく、が至上命題だけに、思い切った省略が欠かせない。「秋田の小一男児、瞬時に連れ去り殺害? 抵抗の形跡なし」といったブツ切りが多いのは、読点などで意味の区切りを際立たせるため。

一期一会の短文に込める思い

最初は非常にとまどった。活字で永遠に? 残る新聞記事と違い、泡のようにすぐ消えてしまう記事にどんな意味があるのか。が、そのうち考え直した。新聞だって、読者がすべての記事を読むわけではない。切り抜いてもらえる記事なんて、極めて少ない。一度きりの出会いは同じこと、と。

電光記事は東京ローカル分など一部を除き、大阪で一括制作しているので、内容も全国を網羅する必要がある。いきおい、東京や西部発の記事をよく読むようになった。記事はA四版の紙に最長三〇行ほどが印刷されて出力され(長い記事だとこれが三枚以上になる)、紙面でどのくらいの扱いになるかは、後になるまでわからない。

日本の今にとらわれずモノを考える素材に

市街地のビルなどで使う三〇字記事は、六本が続けて流れる形となっており、この場合、大きなニュースはやはり最初に来ないと具合が悪い。トップの一枠から最後の六枠まで、ニュースの価値を勘案しながら記事をはめ込んでいく。同じ枠に入れる記事でも、重要と思われるものは長く残し、そうでないものは短時間で入れ替える。その気でやればゲームをしているようで、結構面白い。

当然ながら、担当者によってニュース感覚は異なる。私は意識的に、環境や社会問題、外国の記事を多く入れるようにしている。最近ではチェルノブイリ原発事故二〇年、水俣病公式確認五〇年など。日本の今にとらわれず、幅広い時間と空間の中でモノを考える素材にと思うからだ。五月一一日「東京都内で銭湯がピーク時の三分の一」は飛びついた。一回の勤務で平均二〇本程度でしかないこの仕事にも、何人かの頭や心を揺さぶる可能性があると信じている。

(2006/09/29)



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