ぷくぷくの会ホームページ

世論はどうつくられるか/石塚直人

年が改まって一か月が過ぎ、夏の参院選に向けた政治情勢も輪郭が固まってきた。とりあえずほっとした、という点では、昨年一〇月の号でも紹介した「日本版エグゼンプション」(企業に対し、残業代支払いを免除する労働法制改悪)の国会提出断念が挙げられる。  広範な労働者に自由な労働時間を認め、働きやすくする、と日本経団連が強く主張し、厚労省が最後まで今国会での成立にこだわっていたものだ。それが今年に入って、与党内から慎重論が相次ぎ、見る間に葬られた。

「世論の反発が強く、これでは参院選を戦えない」というのが理由である。どうせ選挙が終われば再び持ち出してくることは目に見えているけれど、この間の経緯は、世論がどう作られるかを示唆し、考えさせられる。

私の勤めている新聞社では、昨年末の段階でエグゼンプションの見出しに「自由な労働時間」などを使っていた。本文でもこうした説明が中心で、対象者に「残業代が支払われない」ことは最後にちょっと触れているだけ。担当して間もない若手が、厚労省の言いなりに記事を書いているのかしらん、と腹立たしい気持ちになった。

それが今年になって、「残業代ゼロ法案」などとわかりやすい見出しに変わった。変化の背景に、政権側の「説明不足」と昨年末以来の混乱があったことは疑いない。混乱は最初から誰の目にも明らかだったわけではなく、主に週刊誌によるスクープ報道のたまものと言える。

「週刊ポスト」による本間・政府税調会長の「愛人と官舎住まい」発覚と辞任に始まり、佐田行革担当相の架空事務所問題による辞任。さらに文科相、農水相、財務相らの疑惑が次々報じられた。記者クラブを通じて政権に親近感を抱きながちな新聞やテレビも、追及姿勢を強めた。

野党大攻勢でも支持率は上がらず

一月二七日に柳沢厚労相が講演で、女性を「子どもを産む機械」に例えた後、野党の大攻勢が始まったが、仮にこの発言が二か月前なら野党の抵抗は今より弱かっただろうし、そうでなくても今ほど報道はされなかった、と私は思う。いったん流れができると、押しとどめるのは難しい。ついでにこの際、民主主義に敵対する安倍内閣そのものを押し流すまでになってほしい。

とはいえ、世論調査によると、野党の支持率もほとんど上がっていない。宮崎県知事選で「不戦敗」の民主党のぶざまさは、共倒れの自民党に劣らない。政財界人を中心に独自の影響力を持つとされる「選択」二月号(書店にはないので、一度図書館で見て下さい)には、「参院選で与党は安泰、『新党出現』以外過半数割れはなさそう」との観測記事が載っている。残念ながら、現状ではそうだろうな、と思わざるを得ない。

(2007/02/20)



1999 pukupuku corp. All rights reserved.