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平和憲法の精神を逆流させないために 石塚直人

日本人学者らが作った新憲法草案要綱

憲法の成立過程で日本人学者らが果たした役割を追った映画「日本の青空」の上映会が、全国各地で進められている。「米国に押しつけられた憲法」という俗論がはびこる今こそ―と旧知の中学校の先生に誘われ、五月下旬のある晩、神戸市内の会場に出向いた。

雑誌社の派遣社員であるヒロインが、先輩に交じって憲法特集の企画を担当する機会を与えられ、ふとしたきっかけで「憲法研究会」の理論的支柱だった鈴木安蔵(一九〇四─八三)を知り、遺族に提供された彼の日記をもとにその業績を明らかにしていく、というストーリー。研究会がまとめた「憲法草案要綱」は、GHQの担当者が高く評価し、GHQ憲法草案の母体となった。

鈴木は、京都帝大に在学中、治安維持法違反第一号の「学連事件」で検挙され、特高警察の監視の下で憲法の研究を進めた。西欧諸国のそれのほか、明治の自由民権運動の中で作られた植木枝盛らの憲法案にも詳しく、これが後の「要綱」に結実する。新憲法の成立に当たり、当時の日本政府は「要綱」を黙殺したが、GHQは直ちに英語に翻訳。天皇主権など明治憲法の骨子を残した日本政府の憲法草案をはねつけ、「要綱」をベースに草案をまとめた。

映画は、鈴木を支えた夫人や娘たちの姿も丁寧に描いている。一方で、勝気なヒロインに振り回されながらも何くれと助言する恋人、「憲法なんて変えたらいいじゃん」とあっけらかんと言い放つ友人らも登場し、笑いも誘う。制作費の二億円は、一口一〇万円の協力券で一億三〇〇〇万円分をカバーしただけで、あとはカンパが頼り。歴史の逆流を許すまい、と願う人たちの支援を求めたい。

「政府はウソをつく」を肝に銘じよう

参院選の公示まであと一ヵ月。社会保険庁の「年金記載漏れ」や松岡農水大臣の自殺などで内閣支持率が急落し、安倍政権は改憲を軸にした公約で「年金」を強調し始めた。五〇〇〇万件の処理を一年で終えるなど、成算の見込みなしに乱発される政府答弁からは、「とにかく選挙をしのげれば」という焦りしかうかがえない。選挙に勝てば、すべて忘れてしまうだろう。

これを報じるメディアの責任は大きい。政府の答弁だけでなく、その実現性や合理性をきちんと検証して伝えることがどうしても必要だ。五〇〇〇万件の処理はどれだけの労力を必要とするか。職員全員に残業をさせるにしても、一日は二四時間しかない。

一番わかりやすい検証方法は、自分がその立場なら、と考えてみることだ。私が事務責任者として「一年で仕上げろ」と言われたら、辞職するのでなければ別のごまかしや手抜きを考える。それしか方法は思いつかない。私の部下も同じように困惑するだろう。「政府はウソをつく」は歴史の鉄則であり、メディアの読者・視聴者としてもそのことは肝に銘じておいていい。

(2007/07/04)



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