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森本菜穂子/手話通訳の役割は何か?

ろうあ者からの相談で、一緒に会社との話し合いに行った。前もって会社に「手話通訳者はこちらで用意します」と文書で知らせていた。つまり本人が希望する通訳者である。それなのに話し合い当日、会社側が用意した手話通訳者と鉢合せになった。最初、会社の人かと思ったが、「手話通訳者を用意した」と言われて唖然とした。

交渉に入り「前もってこちらで用意すると伝えたのに、なぜ別に用意するのか?」と聞いたら、「公平に手話通訳をしてもらいたいから」という。あまりにも横柄で身勝手な会社の態度に堪忍袋の緒が切れて、「会社のいう公平とは何ですか? 私たちろうあ者が用意した手話通訳者を信用できないのですか?」と問いただした。すると、「あなた達が用意する手話通訳者はあなた達の味方で、会社を弁護してくれないでしょう?」と言われて愕然とした。

会社は手話通訳について全く無知であるのに、なぜ事前に私たちに聞かなかったのか?と思う。会社が用意した手話通訳者は、公的な機関から派遣されており、ろうあ者が望む手話通訳者と違っていた。

手話は大きく分けて、聴者が学ぶ日本語対応手話とろうあ者の言語である日本手話の二つがある。会社が頼んだ手話通訳者は日本語対応手話のみで、日本手話の読み取りと表現ができない。こちらが用意した手話通訳者は、日本手話を学習しており、読み取りや表現が少しできる。ろうあ者がどちらかを選ぶとしたら、当然自分の言語である日本手話が読み取れる手話通訳者を選ぶに決まっている。

また、手話通訳の役割とは、手話を知らない人とろうあ者を繋ぐ役割があり、またろうあ者が発言したり主張するのを相手にきちんと伝えるという大事な責務がある。会社は「日本手話」と「日本語対応手話」の違いも知らず、「公平」という言葉を借りて手話通訳を頼んだのだ。

雑談の様子を説明しない通訳者

その時は、派遣された手話通訳者を追い返すわけにもいかず、会社の通訳をお願いした。私たちの手話通訳者はろうあ者側の通訳をしてもらう形で交渉を進めた。しかし交渉中、会社が返事に窮して役員たちが小声で雑談している場面で、派遣された手話通訳者はその様子を説明せず、ろうあ者側の手話通訳者が説明してくれた。後で会社側の手話通訳者に聞いたら、「会社がやばい場面では手話通訳をしない」と答えが返ってきた。明らかに会社の味方をしているのがわかり、憤慨した。

これでは誰の為の手話通訳かわからない。手話通訳の基本的な役割は、手話を知らない相手側の対話や会議の内容を即時に日本手話で伝えるだけでなく、場面の様子を説明する役割もある。そうでないと、先ほどの会社の役員たちが小声で雑談している場面では、その場にいる聴者だけが内容をわかり、ろうあ者だけがわからないという不公平が出てくる。不公平にならない為にも、会社側も派遣されて来た手話通訳者も「手話は誰の言葉か? 誰の為の手話通訳者か?」を真摯に考えていただきたいと思う。

(2007/10/11)



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