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「政治とカネ」追求─記者の努力の賜物/石塚直人

膨大な資料チェック 地道な作業が基本

参院選は与党の惨敗に終わり、民主党が初めて第一党に躍り出た。安倍首相は居座りを決め込んだが、改造内閣はわずか一週間で農水相らが辞任するなどし、泥船の印象を深め、臨時国会の代表質問が始まる直前の九月一二日、突然、政権を投げ出した。

選挙前から相次ぎ発覚した「政治とカネ」をめぐる不祥事は、主に週刊誌や新聞各紙の記者の努力の賜物である。各都道府県の選挙管理委員会に保管されている政治資金収支報告書や領収書の写しを何年分にもわたって情報公開請求し、分厚い資料に並ぶ数字の列を細かくチェックすることが、取材の端緒となる。

真剣勝負 政治家相手の取材

新聞社はどこもリストラが進み、人員の余裕はない。大半は日常業務の間を縫っての仕事、しかも調べても何も見つからないことの方が多い。すでに不正のウワサが出ている場合など、他社に抜かれる不安もある(先に書かれてしまえば、社内的にはそれまでの努力は無駄と見なされる)。気がせくあまり、どうしても睡眠時間を削りに削っての作業となりがちだ。

それで不正の証拠が見つかれば、事務所や本人に直接ぶつけてコメントを取る。政治家のスキャンダル取材は難しい。あやふやな追及では逃げられるし、間違えれば名誉毀損で訴えられることもある。文字通りの真剣勝負。動き出す前には「本当に不正と断定して大丈夫か」と念入りな点検が行われる。

記者は警察のような捜査権を持たない。とくに若手の場合、海千山千の政治家相手の単独取材は「怖い」のが普通だ。私は昔の支局時代、陣営から選挙違反を出した何人かの県議に個別に会い、「有権者の政治不信にどう向きあうつもりか」と尋ねたことがある。回答は地方版のコラムで紹介したが、その程度の追及でも内心はビクビクものだった。一人については自分の身の危険さえ覚悟した。

受け継ぎたい「行動する作家」の遺志

参院選の開票が進んでいた七月三〇日未明、作家の小田実さんが亡くなった。高校時代に「ベ平連」でその名を知って以来、少なからぬ影響を受けたひとりである。その昔、岩波新書で出た「世直しの倫理と論理」は、高校生の私にとってバイブルだった。

「学生にとってただ歩くだけのデモは生ぬるくても、田舎の女子高生には参加するだけでもたいへん」などの文章に、反戦デモで停学になった高校の先輩の姿を重ね合わせたりした。

ここ数年、同じ西宮市に住んでいながら、畏れ多くて結局会うこともなかったが、思い半ばで命を閉じた彼の無念はわかるような気がする。遺志の何百分の一かは受け継いでいきます、と伝えたい。

(2007/10/11)



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