ぷくぷくの会ホームページ

「美談」報道の裏にある日米政府の意図 石塚直人

読者を勇気づける震災報道の記事

「東日本大震災」の発生から1か月。死者は13392人、行方不明者はさらに多い15133人(4月13日警察庁まとめ)に達し、福島第一原発の事故はチェルノブイリ原発のそれと同じ最重度の「レベル7」と位置づけられた。放射性物質の流出はなおも続き、収束の見通しは立っていない。

それでも、新聞の紙面作りはかなり落ち着いてきたようだ。印刷工場が被災し道路網が寸断され、雪も降った一時期、東京本社早版の降版(印刷開始)は通常より3時間も早い午後6時半だったが、今は8時まで戻った。大阪本社から被災地と東京本社に送り込んだ応援組も、一部を除いて撤収した。

この間に目を通した記事には、忘れられないものが多い。両親を失った子ども、杖と頼む息子を失った老親。不眠不休で公務に奔走し、4月5日に夫人の遺体を確認した岩手・陸前高田市長のコメント「こういう立場でなければすぐ助けに行った。今まで放っておいて、夫として、人として情けない」には目頭が熱くなった。被曝の不安に耐えて「自分が止めないと」と原発事故に挑んだ作業員の姿にも、粛然とさせられた。

こうした記事は読者を勇気づける。このほか各紙が展開した安否や避難所、各種ボランティアなどの情報コーナー(阪神大震災で広がった)も、被災地の支援に大きな役割を果たしたはずだ。記者にとっては「冥利に尽きる」と言っていい。

被災地支援を日米同盟強化に「利用」

しかし、複雑な思いを禁じ得ない記事もある。連日テーマを決め、一面すべてを使って被災現場の「24時間」を紹介する企画で、読売新聞は1日、米海軍を取り上げた。

揚陸艦に同乗した記者のルポ記事で目を引いたのは、22歳の美人女性少尉の顔写真。彼女は横須賀基地にいた父の影響で、高校時代に日本に留学、大学でも日本語を学んだという。

他の各国、とくに中国軍からの支援を最小限にとどめる一方で、空前の1万8000人を動員した米軍の「トモダチ作戦」には、メア元国務省日本部長の失言問題などで傷ついた日米同盟の再建・強化を目指す両国政府の強い意図がある。

米軍が日本びいきの美人士官を記者に紹介したのも、広報の常套手段だ。それに乗って、記者は相手の思い通りの記事を書く。その積み重ねが読者の親米意識を深め、或いは反軍感情を和らげ、沖縄の基地問題から日本人をさらに遠ざける。日本の対米隷属はいっそう進むだろう。

自分がその取材を命じられたと仮定して、「拒否する」と言えないのがつらい。そうしても別の誰かが行かされ、自分は次から仕事をはずされる、と思ってしまうのだ。いざ現場に行けば、手抜きを考えるどころか、逆に「紙面効果を高めるため、美人の女性士官を登場させたい」などと相手に注文しかねないのが記者。そうでなければ、東京本社の社会部に配属されることはまずない。読者の皆さんは、どう思われるだろうか。

WEBは抜粋版です。すべて読みたい方は購読案内をご覧ください。



1999 pukupuku corp. All rights reserved.