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まねき猫通信68ぴきめ(2008年3月1日発行)

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トリの眼・ムシの目・ニャンコの目 (巻頭コラム)

山田洋次監督『母べぇ』の時代背景は一九四〇〜四二年で、ドイツ文学者の父べぇ(父: 滋)が思想犯として獄に繋がれるところから物語が始まる。姉の初べぇ(初子)、妹の照べぇ(照美)、そして母べぇ(母: 佳代)は、全てが戦争へ靡いていく暗い時代を精一杯明るく生き抜く。それだけなら、単なる家族愛の話に過ぎないのだが、山田監督の目は飽くまでも現代を見据えている。

「不合理と矛盾に目をつむらねば生きていけない時代なんだ」「こんな給料の安い仕事でもいったん離してしまうと次は得られないからね」こんな科白が出てくると「今」に想いが行く。滋の教え子・山ちゃんが出征する時、「死ぬ覚悟ができてるって? 何を偉そうに!」と母べぇ役の吉永小百合が涙で抗議する場面には、強いられる「死」への怒りが漲っている。滋が獄死し、山ちゃんも戦死する。そして、短いナレーションが流れてあっという間に現代に。姉妹が母の最期を看取るラストシーン、死斑の出た吉永小百合の鬼気迫る演技といまわの際の科白に…嗚咽した。

泣きたくて流す涙より、泣くまいとして流す涙こそが逆境を越える糧なのだ。「泣けます」という詐欺に騙されるな! 暗黒の時代に、美しい涙など流れないのだから。 (パギ)

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